身内が亡くなった直後は、悲しむ間もなくお通夜や葬儀の準備に追われますよね。
まとまった葬儀費用が必要になったとき、「とりあえず親の銀行口座から出そう」と考える人はとても多いです。
しかし、もし「親に借金がある」「売れない田舎の土地や家を引き取りたくない」という理由で相続放棄を考えている場合、この行為には重大な落とし穴があります。
一歩間違えると、裁判所から「相続を認めた」とみなされ、相続放棄ができなくなってしまいます。
たまたま受けた相談から、相続放棄を考えている人が「葬儀費用」で絶対に失敗しないための注意点と、知っておくべき最新の法律知識をわかりやすく説明します。
そもそも、親の貯金から葬儀代を出しても相続放棄できる?
結論から申し上げますと、常識的な範囲、身分相応の葬儀費用であれば、親の預貯金から支払っても相続放棄は可能です。
民法では、亡くなった人の財産を勝手に使ってしまうと「相続することを認めた」とみなされるルールがあります。
しかし、過去の裁判例では、「遺族として当然営むべき常識的な範囲の葬儀費用を遺産から出すことは、道義上まっとうな行為であり、財産の処分には当たらない」と判断されています。
ただし、そのためには「絶対に破ってはいけない4つの鉄則」があります。
相続放棄を台無しにしないための「4つの鉄則」
①「身分相応、常識的な範囲」の金額に収める
裁判所で認められるのは、あくまで一般的なお葬式(火葬、通夜、告別式、お布施など)の費用です。
- ダメな例:必要以上に豪華な祭壇にする、身内以外の盛大な接待を行う、など。
身の丈に合わない贅沢な葬儀を遺産で賄うと、「遺産を勝手に消費した」とみなされ、リスクになります。
② 領収書や明細書はすべて保管する
親の口座から引き出したお金は、全額葬儀のために使われたことを客観的に証明できるようにしてください。
- 葬儀社からの領収書はもちろん、領収書が出ない「お寺へのお布施」や「火葬場の費用」についても、支払った日付・金額・相手先(お寺の名前など)を必ずメモに記録して残しておくことです。
③ 葬儀以外の「故人の未払い金」は絶対に遺産から払わない
ここが一番の注意点、盲点であり、最も多い失敗です。
良かれと思って、親の口座から以下の支払いをついでにやってしまうと、その時点で相続放棄は一発でアウトになります。
- 絶対に遺産から払ってはいけないもの
- 病院の入院費・治療費の未払い分
- 介護施設の費用
- クレジットカードの引き落とし
- 住民税や固定資産税の税金(督促状)
これらは法律上「債務の弁済、すなわち借金を代わりに返した行為」とみなされ、民法第921条に定められた「法定単純承認(自動的に相続を認めたことになるルール)」に引っかかってしまいます。どうしても支払う必要がある場合は、必ず自分自身の財布から支払うようにしてください。
④ 四十九日や一周忌の費用は遺産から出さない
裁判で認められているのは、あくまで「亡くなった直後の葬儀・火葬」の費用までです。
その後の四十九日法要、一周忌、墓石や仏壇の購入、香典返しの不足分などを親の遺産から出すと、単純承認とみなされる危険性が非常に高くなります。これらも遺産には手をつけず、遺族のポケットマネーで対応しましょう。
【法律知識】2023年の民法改正で「相続放棄した後の責任」が軽くなりました!
田舎の古い家や田んぼを引き取りたくなくて相続放棄を考えるとき、「自分が放棄したら、その家が倒壊したときの責任はどうなるんだろう…」と不安になりませんか。
実は、2023年(令和5年)4月1日の民法改正(第940条)により、この管理義務のルールが大きく変わり、私たちにとって有利になりました。
- 改正前:次の人が管理を始められるまで、放棄した人もずっと管理を続けなければならない(範囲が曖昧で大問題でした)。
- 改正後:放棄した時に、「現にその財産を占有している(実際にそこに住んでいる、使っている)人」だけが、次の管理者に引き渡すまで管理義務を負う。
つまり、親とは別の場所に住んでいて、実家を現に占有していない(使っていない)状態であれば、相続放棄をした瞬間に、その家や土地の管理責任から完全に解放されることになった。空き家問題に悩む現代において、非常に重要な法改正ですので、知っていて損はありません。
知っておくと安心!「香典(こうでん)」の正しい扱い方
葬儀の際、参列者からいただく「香典」はどう扱えばいいのでしょうか?
法律上、香典は「外から喪主個人に対して贈られたもの」とみなされます。つまり贈与で、親の遺産ではなく「喪主のお金」になります。
そのため、香典をいくら受け取って葬儀費用に充てても、相続放棄には影響しません。
親の口座から無理にお金を引き出すよりも、いただいた香典を優先して支払いに充てるのが最も安全な方法です。
少しでも迷ったら「自分の財布」から出すのが一番安全
親の遺産から葬儀代を出すことは法律上認められていますが、のちに裁判所へ相続放棄を申し立てた際、細かく使途を突っ込まれる可能性はゼロではありません。
もしご自身の経済状況が許すのであれば、「葬儀費用は一旦すべて自分の財布から立て替え、香典で補填する。親の口座には一切手をつけない」というのが、相続放棄を確実に成功させるための最も確実な防衛策です。
相続放棄には「自分が相続人だと知ってから3ヶ月以内」という厳しいタイムリミットもあります。少しでも不安な点がある場合は、お金を動かす前に、当事務所へ相談してください。
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この記事の監修者 行政書士 髙橋 一夫
2026-7-17

