技能実習制度、そして2027年4月からスタートする新制度「育成就労制度」において、外部監査人の役割はますます重要性を増しています。
特に、監理責任者等講習を修了された行政書士の中には、「受入れ企業の法の適合性をどこまでチェックし、どこからが他士業の領域(業際)になるのか」という線引きに思いを巡らす方も多いのではないかと思われます。
外部監査人には労働関係法令の監査義務がある一方、一歩間違えると社会保険労務士法(社労士法)第27条(非社労士の業務制限)に抵触するリスクがあります。
今回は、行政書士が監理実務を行う上で絶対に知っておくべき「業際に引っかからないための労働関係法令の整理」を実務目線で分かりやすく説明します。
1. 各労働関係法令における「業際」の境界線
行政書士が外部監査や監理業務を行う際、もっとも注意すべき法令ごとの境界線(やっていいこと・ダメなこと)を整理しました。
① 労働基準法・最低賃金法(36協定・就業規則)
- ⭕️ やっていいこと(監査・確認義務の範囲)
- 提示された「36協定」が適切に労基署へ届け出されているかの確認
- 「賃金台帳」と「タイムカード」を突合し、サービス残業や割増賃金の未払いがないかのチェック
- 最低賃金(地域別・産業別)をクリアしているかの判定
- 違反を発見した際に「法律違反の状態なので改善してください」と企業へ指摘・指導すること
- ❌ やってはいけないこと(社労士の独占業務)
- 実習実施者(受入れ企業)の代わりに「36協定届」や「変形労働時間制の届出書」を作成・提出代行すること
- 企業から依頼されて、就業規則や賃金規程の本体を直接作成・改定すること(社労士法第2条1項2号の「帳簿書類の作成」に該当)
② 雇用保険・労災保険(労働保険)
- ⭕️ やっていいこと
- 「労働保険概算・確定保険料申告書」の控えや領収書を見て、適正に加入・支払いがされているかを書類上で確認すること
- ❌ やってはいけないこと
- 外国人が入社・退社した際、ハローワークに提出する「雇用保険被保険者資格取得届」などを代わりに作成・手続きすること
- 労災事故が発生した際に、労基署へ提出する「労働者死傷病報告」や「労災給付の請求書」を作成すること
③ 健康保険・厚生年金保険(社会保険)
- ⭕️ やっていいこと
- 「被保険者標準報酬月額決定通知書」や「領収証書」を企業から提示させ、適正に標準報酬が算定され、給与からの天引き額が正しいかをチェックすること
- ❌ やってはいけないこと
- 年金事務所に提出する「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」や「扶養異動届」などを代わりに作成・申請すること
2. 雇用契約書・労働条件通知書の「グレーゾーン」
ここは行政書士と社労士の間で最も見解が分かれやすく、トラブルになりやすいポイントです。
雇用契約書や労働条件通知書は、行政書士法上の「権利義務に関する書類」に該当するという見解がある一方、社労士側からは「労務管理目的の帳簿書類であり社労士独占である」と主張されるケースがあります。
(社労士側の「絶対に社労士独占」という主張は断定しすぎで、行政書士側の見解にも十分根拠があるとなります。日本行政書士会連合会)
監理実務においては、監理団体や外国人転籍支援機構(現在の外国人技能実習機構:OTIT)が指定している「標準フォーマット(ひな形)」をそのまま使い、企業自身に記入してもらうのが最も安全です。行政書士側で独自の労務特約やアドバイスを盛り込んだ契約書をゼロから作成することは避けるべきだと思います。
3. まとめ:業際に引っかからないための「原則」
行政書士であり、外部監査人(監理責任者)でもある私たちがトラブルに巻き込まれないための大原則は、「チェック(監査・確認)は法的な義務だが、手続き(作成・代行)は社労士の領域」と割り切ることと思います。
- 「書面のチェック・指摘」は監理実務の正当な行為
実習法上、私たちは企業が労働法令を守っているかを監査する義務があります。したがって、「36協定が出ていない」「残業代が足りない」と指摘・指導することは、社労士法違反にはなりません。 - 「代わりに作ってよ」は絶対に断る
企業から「じゃあ代わりに残業の協定届を作って労基署に出しておいて」と頼まれた際、それを引き受けてしまうと完全にアウトになります。
不適正な労務環境を発見した場合は、受入れ企業に対し「これは労基法違反になる可能性が高いので、御社の顧問社労士の先生に相談して修正届を出してください」と促すのが、プロとしての最も安全で正しい立ち回りです。
入管法・技能実習法(育成就労法)に基づく「官公署への申請(行政書士の独占)」と、労基署・ハローワークへの「労務の届出(社労士の独占)」を綺麗に切り分け、健全な監理・監査業務を行っていきましょう。
だたし、外部監査人である以上労働関係法令には明るくないと業務は遂行できないでしょう。
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この記事の監修者 行政書士 髙橋 一夫
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2026-10-15
